捜索法

 「防御法」の項で詳しくみたとおり、吸血鬼を防ぐ方法は色々存在するが、一時的に追い払っても、完全に息の根を止めない限り何度でもやってくることは目に見えている。そこで今度は家の外に出て吸血鬼を退治することにする。まずは相手の居所を掴むことである。

 ドラキュラ伯爵のようにちゃんとした城や邸に住んでいるならともかく、通常の吸血鬼は墓場や納骨堂を根城にしているので、その捜索はまず墓場から始めることになる。セルビアやウクライナでは、墓の周りに灰や塩を撒き、翌朝、足跡の有無や屍体の衣服(灰や塩の付着の有無)を調べるという。また、墓に小さな穴があいていればそれは吸血鬼が野鼠に変身して出入りしている証拠であり、墓が沈下していたり、十字架が曲っていたりするのも要注意である註1。他の方法としては、黒い雄鶏を放って、それがねぐらに選んだ墓が吸血鬼の墓であるとか、黒い子馬を放って、こちらは逆に近付くのを嫌がるのが吸血鬼の墓であるとかともいう。

 註1 セルビアではこういう話は19世紀はじめまで小学校の教科書にのっていたという。

 また特殊な方法として、吸血鬼に催眠術をかけられた犠牲者に逆催眠をかけてその暗示を探り出すという高等技術もある。これは『吸血鬼ドラキュラ』のヴァン・ヘルシング教授の得意技である。

 と、そんな具合に怪しい墓のめぼしをつけ、次にその墓を掘り返すことになる。その際には香を焚くことがすすめられる。香は吸血鬼に対して大蒜に匹敵する威力を持つとされ、死臭をごまかすという意味も持っている。

 そして、屍体が腐敗していなかったり、爪や髪がのびていたりしたら、それがつまり吸血鬼である。ただここで注意が必要なのは、東方正教においては、生前に破門された人は死後も魂の安らぎを得ることが出来ないままその屍体も腐ることがないとされるのに対し、ローマ・カトリックでは腐敗しない屍体はその人の聖者たる証しと見られることである。「永遠の美の封印」によって生前の美しさを保った聖人の胸に杭をぶち込んだりしたらエライことである。


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